抒情曲や朗読など、詩と音楽の創作を中心とした活動に取り組む
「明窓舎」(主筆:根岸 弘先生)では、来る11月23日(水・祝)に結成以来3度目のコンサートを開催する運びとなりました。前回に引き続き、東京・新宿区山吹町の
パフォーミングギャラリー&カフェ「絵空箱」を会場に、二部構成で上演します。

▲東急池上線石川台駅(2011.11.6)
今回の見どころとして特にご案内しておきたいのが
『石川台追想』と題した朗読作品です。
詩作と朗読を手がける
貴慈瑠(きじる)さんは、五反田と蒲田を結ぶ東急池上線(全長10.9km)の石川台駅界隈(東京都大田区)で若き日を過ごされました。この『石川台追想』とそれに続く歌曲『坂道の町』は、貴慈瑠さんの原風景、原体験から生まれた作品です。私の父もほぼ同じ時代に池上線の御嶽山駅付近で幼少期を過ごしていますので、貴慈瑠さんとは隣町同士。この企画が進むにつれ、父から聞いている“まち”の記憶と貴慈瑠さんの詩の展開が絶妙な重なりを見せてくれました。そして、時代を超えて“まち”を捉え、描写することの難しさと楽しさを同時に味わうことにもなりました。
もちろん私も、物心ついた昭和50年代の末から池上線沿線の風景を見続けています。近頃は最新鋭の電車が走るようになり、駅には自動改札やホーム柵が導入されたりと仔細な変化はありますが、商店街のたたずまいなど駅周辺の風景を含めた舞台装置としての池上線の姿は、そんなに大きく変わっていないと感じています。山手線の駅から十数分でたどり着ける範囲において、こういった地域は比較的珍しい存在でしょう。池上線といえば、昭和51年(1976)に大ヒットした西島三重子の歌『池上線』を思い起こされる方も多いかと存じますが、その時代の空気が今でも街のそこかしこに残っている感じがします。

▲朗読する貴慈瑠さん(2011.5.28=前回公演)
さらに、この企画に新たな時間軸と広がりを持たせてくれたのが、
明治大学商学部の特別実践テーマ科目「観光集客プロモーション」受講生の津田佑介さん、桑原拓也さんをはじめとする皆さんです。彼らはこの数年来、大田区の池上線沿線(上池台〜雪谷周辺)を中心にフィールドを定め、丹念な取材と検討を重ねて、「ぐんぐん坂 大田」「あじわい坂」という2編のプロモーション映像やマップを完成させました。その作品が大田区役所、そして私の参画するNPO法人「大森まちづくりカフェ」に縁あって持ち込まれ、観賞の機会を得たことで、今回のコラボレーションが実現しました。ウェブを介して視聴した貴慈瑠さんによると、やはり彼らの映像とご自身の記憶がぴったりと重なり合ったといいます。坂道が紡ぐ情景には、さまざまな世代の人の心を惹きつける不思議な力があるようです。
朗読にあわせて上映する映像には、彼らが提供してくれたカットも登場します。そうすることで、貴慈瑠さんが石川台で過ごした時間を現代とつなげることができそうです。また、コンサートでは、彼ら自身に取り組みの現状と“まち”への想いを語ってもらえる時間を設ける予定です。
この試みを通して、石川台という地域を切り口に、世代を超えた“まち”への愛着が表現、発信されていきます。その想いをコンサートの観覧者ひとりひとりに伝え、共有し、日々の暮らしの中に持ち帰ってもらう機会にしたいと考えています。そして何より、現役の大学生がこうした場を通じて、学校と社会を自在に行き来する活動を展開してくれるのが心強く、少し前に似たような経験をしてきた私は、微力ながら彼らの役に立つことができればと願っています。
【参考】・
明治大学商学部「ミエ・ログ!」観光集客プロモーション・「ぐんぐん坂 大田」・「あじわい坂」なお、貴慈瑠さんの実妹である浜辺玲子さんから雪ヶ谷八幡神社の神輿巡行のカットなどを頂戴したほか、鉄道趣味の先輩である中部浩佐さんからは、昭和62〜63年(1987〜88)頃に石川台駅付近で撮影した池上線の旧型電車(デハ3450形など)の写真をご提供いただきました。桜が満開の切り通し区間を駆けてゆく緑色の電車の息づかいが、まるで昨日のことのように鮮やかにスクリーンによみがえります。
このたびのコンサートには「風景の記憶」というテーマがあります。
今年は東日本大震災や台風災害によって、わが国の各地で日常の風景が数多く失われた年でもあります。千年に一度といわれる規模の災害が私たちに教えてくれたことの一つは、長らく当たり前に存在してきた風景の大切さであったといえます。『石川台追想』をはじめ、このコンサートをご覧いただくことで、私たち人間の心のよりどころである“風景”について思索をめぐらし、自分が暮らす“まち”の個性を改めて認識するきっかけとしていただければ幸甚です。
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第3回「明窓舎サロンコンサート」〜風景の記憶〜後援/横浜清笛会 協賛/雲隠之会
【プログラム】
●T部 (14:00開演)・「みるなの倉」 朗読/貴慈瑠、笛/草寧音、鉦/松井裕紀
・「曼珠沙華」 舞踏/藤原舞鶴
・「菜摘歌」 歌/前田幸輔、初音里
・「やまとしうるはし」「明日香の子守歌」 ピアノ・歌/初音里
・「石川台追想」 朗読/貴慈瑠、映像構成/山田智士、映像協力/津田佑介・桑原拓也
・「坂道の町」 歌・ピアノ/初音里
・「また いつの日か」 歌/前田幸輔、マンドリン/中村茉莉、ピアノ/草寧音
●U部(17:00開演)・「砧」 謡/熊谷眞知子、笛/根岸啓子
・ 創作能舞「天の夕顔」 企画構成/根岸弘、舞/熊谷眞知子、笛/根岸啓子、朗読/貴慈瑠
・「いとしい人へ」 歌・ピアノ/初音里
・「みるなの倉」 朗読/貴慈瑠、笛/草寧音、鉦/松井裕紀
・「また いつの日か」 歌/前田幸輔、マンドリン/中村茉莉、ピアノ/草寧音
【料金】(1名様、いずれもワンドリンク付き)
・I部 2,500円
・U部 3,000円
【会場】・パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』
〒162-0801 東京都新宿区山吹町361 誠志堂ビル1〜2階
※アクセスマップは
こちら【お問合せ】「明窓舎」ウェブサイトをご覧のうえ、メールにてご連絡ください

▲会場イメージ(2011.5.28=前回公演)
posted by 山田智士 at 14:06| 東京 🌁|
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雲隠之会
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